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2024年に始まった新NISAは、投資で得た利益が非課税になるという大きなメリットがあります。しかし、その裏返しとして、多くの投資家が誤解しやすい重要なルールが存在します。それは「NISA口座で発生した損失は、他の証券口座で発生した利益と相殺する『内部通算』ができないという事実です。
なぜNISAでは内部通算ができないのか、その理由と税務上の扱いを深く理解することは、NISAを賢く活用するための第一歩となります。
NISA(少額投資非課税制度)の最も重要な特徴は、その名の通り「非課税」であることです。NISA口座内で購入した株式や投資信託などを売却して得た利益(譲渡益)や、受け取った配当金・分配金には、所得税・住民税が一切かかりません。
この「利益が非課税」というルールの対価として、NISA口座内で発生した損失は、税法上「存在しないもの」として扱われます。
日本証券業協会のウェブサイトでも「NISA口座では、上場株式や株式投資信託等の配当金や売買益等は非課税となる一方で、これらの売買損失は税務上ないものとされます」と明記されています。この「税務上ないもの」という扱いが、内部通算ができない直接的な理由です。
したがって、NISA口座でどれだけ大きな損失を出したとしても、その損失をNISA内の利益と相殺すること(内部通算)も、他口座の利益と内部通算することもできません。同様に、損失を翌年以降に繰り越して将来の利益から差し引く「繰越控除」の制度も、NISA口座の損失には適用されません。
そもそも内部通算や繰越控除は、利益に対して税金がかかる(課税される)ことを前提とした「救済措置」です。課税口座では、投資で得た利益に対して約20%の税金が課されます。そのため、損失が出た場合には、その損失を利益から差し引くことで課税対象額を減らし、税負担を公平に調整する仕組みが用意されているのです。
一方、NISA口座では、利益にそもそも税金がかかりません。税金が発生しない以上、その税負担を軽減するための救済措置である内部通算や繰越控除も、制度的に必要ない、というのがNISAの基本的な考え方です。
「利益非課税」という大きなメリットと、「損失の税務上の救済なし」は、表裏一体の関係にあると理解しておきましょう。
NISA口座と、一般的な課税口座(特定口座や一般口座)とで、利益や損失の取り扱いがどのように違うのかを比較すると、その特徴がより明確になります。
| 特徴 | NISA口座 | 課税口座(特定口座など) |
|---|---|---|
| 利益への課税 | 非課税 | あり(所得税・住民税 合計約20.315%) |
| 内部通算 (他の課税口座の利益と相殺) |
できない | できる |
| 繰越控除 (損失を最大3年間繰り越し) |
できない | できる |
| 確定申告 (利益や損失について) |
原則不要 | 特定口座は利益確定時は源泉徴収で完結可 損益通算・繰越控除の適用 または一般口座は確定申告が必須 |
この表からも分かる通り、NISAは利益が出た場合に大きな恩恵を受けられる反面、損失が出た場合の税制上の柔軟性はありません。この点を理解した上で、NISA口座内での損切りなどの判断は、純粋に「今後の価格回復が見込めるか」「より良い投資先に資金を移すべきか」といった投資的な観点から行う必要があります。
NISA口座の損失は内部通算できないと聞くと、一度失敗したらその分の非課税枠が永久に失われるように感じてしまうかもしれません。しかし、新NISAには、そうした投資家の不安を和らげ、再挑戦を可能にする画期的な仕組みが導入されています。それが「非課税枠の再利用」制度です。
新NISAの最大のメリットの一つが、生涯にわたって利用できる非課税保有限度額(1,800万円)の枠を、売却によって復活させ、再利用できる点です。
ここで最も重要なポイントは、復活する非課税枠の金額が、売却時の時価(売却額)や損益ではなく、その商品を購入したときの金額、つまり「取得価額(簿価)」で計算されることです。
例えば、NISA口座で100万円分の投資信託を購入したとします。これが80万円に値下がりした時点で売却した場合、20万円の売却損が確定しますが、翌年に復活する非課税枠は、値下がり後の80万円ではなく、当初の投資額である100万円分となります。
逆に、120万円に値上がりした時点で売却した場合も、復活する枠は利益を含んだ120万円ではなく、取得価額の100万円です。
この仕組みにより、投資の成否にかかわらず、一度投資に利用した元本分の非課税枠が、将来の投資のために再び使えるようになります。
非課税枠の再利用には一つ注意点があります。それは、売却によって復活した枠が利用可能になるのは、売却した年の翌年からであるという点です。
例えば、2025年中にNISA口座の商品を売却した場合、その取得価額分の枠が復活するのは2026年の年間投資枠に加わる形となります。2025年中に売却して、同一年内にその枠を使って別の商品に投資することはできません。このタイムラグは、投資計画を立てる上で考慮しておく必要があります。
具体的な例で見てみましょう。
状況
値下がりと売却
復活する非課税枠
この取引により20万円の損失が確定しましたが、翌年に復活する非課税枠の金額は、売却額の80万円ではなく、当初の取得価額である100万円です。
損失を経験したとしても、次の投資機会のために100万円分の非課税枠を取り戻すことができるのです。
NISAで損益通算ができない理由をより深く理解するために、比較対象である通常の課税口座(特定口座や一般口座)における「内部通算」の仕組みを見ていきましょう。
内部通算とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間における、金融商品の取引で生じた利益(譲渡益)と損失(譲渡損)を合算(相殺)できる制度です。
例えば、ある年に課税口座で以下のような取引があったとします。
この場合、内部通算を適用すると、利益50万円から損失30万円を差し引いた20万円が、その年の課税対象所得となります。
もし損益通算がなければ、利益の50万円全額に対して約20.315%の税金(約10万円)がかかりますが、内部通算後は課税対象が20万円に減るため、税金も約4万円に軽減されます。
内部通算を行ってもなお損失が残ってしまった場合、さらに強力な救済措置があります。それが「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除(くりこしこうじょ)」です。
これは、その年に相殺しきれなかった損失を、翌年以降、最大3年間にわたって繰り越し、将来の利益から差し引くことができる制度です。
例えば、今年50万円の損失を出し、利益がなかったため内部通算できなかったとします。この50万円の損失を繰越控除することで、来年もし60万円の利益が出た場合、その利益から去年の損失50万円を差し引き、課税対象を10万円に圧縮できます。
このように投資家にとって有利な内部通算や繰越控除ですが、これらの制度の適用を受けるためには、必ず自分で確定申告を行う必要があります。
特定口座(源泉徴収あり)を利用していると、利益が出た場合は金融機関が税金を計算・納付してくれるため確定申告は原則不要ですが、内部通算や繰越控除を利用して税金の還付を受けたり、将来の税負担を軽減したりしたい場合には、確定申告をすることが求められます。
NISA口座ではこれらの複雑な計算や申告が不要である一方、課税口座ではこうした手続きを踏むことで税負担を最適化できる、という違いがあります。
「少しでも多くの非課税枠を使いたい」「A銀行とB証券でNISAを使い分けたい」といった考えから、複数の金融機関でNISA口座を申し込んでしまうケースがあります。しかし、これはNISAのルール上、重大な誤りであり、予期せぬ税務上の問題を引き起こす「罠」となり得ます。
NISA制度における絶対的なルール、それは「同一年において、NISAの勘定を設定できるのは、一人につき一つの金融機関の、一つの口座に限られる」というものです。
金融機関はNISA口座の開設申込を受け付けると、必ず税務署に照会を行い、その人が他の金融機関でNISA口座を開設していないかを確認します。もし複数の申し込みがあった場合、税務署の審査を経て、原則として最初に手続きが完了した一つの口座のみが有効なNISA口座として認められ、それ以外の口座は「NISA制度は無効」となります。
ここからが重要なポイントです。もし、無効と判断されたNISA口座で、すでに何らかの金融商品を購入してしまっていた場合、その取引はどうなるのでしょうか。
結論から言うと、その取引はNISA口座としての非課税メリットを一切受けられず、金融機関の「特定口座」または「一般口座」で行われた取引として扱われます。
どちらの課税口座に移管されるかは金融機関の対応によりますが、いずれにせよ利益が出た場合は課税対象となります。特に一般口座に移管された場合は、金融機関が年間の損益計算書を作成してくれないため、自分で取引の損益を計算し、確定申告を行う必要が出てくるなど、管理が煩雑になります。
無効になった口座(=特定口座または一般口座扱い)での取引結果は、税務上、以下のように扱われます。
利益が出た場合
損失が出た場合
ここは少し複雑ですが、特定口座または一般口座での損失として扱われるため、他の課税口座で出た他の利益と内部通算することが可能です。
これは、有効なNISA口座の損失が損益通算できない点とは対照的です。
ただし、「有効なNISA口座で損失が出て、無効になった口座で利益が出た」というケースでは、NISAの損失は税務上ないものとされるため、両者を相殺することはできません。あくまで、それぞれの口座のステータス(NISAか、課税口座か)に応じた税金のルールが適用されることになります。
重複開設に気づいた場合は、速やかに利用しない金融機関にキャンセルの連絡を入れ、取引履歴を確認し、必要であれば税務署や税理士に相談することが賢明です。
NISA口座で含み損を抱えてしまうと、精神的に辛いものがあります。しかし、感情的な判断は避け、冷静に次の戦略を練ることが重要です。新NISAには「非課税枠の再利用」という武器があることを思い出しましょう。
NISAは、そもそも短期的な売買で利益を追求する制度ではなく、長期的な視点で資産を育てることを目的としています。そのため、価格が下落したからといって、すぐに売却する必要はありません。
以下のような場合は、慌てずに「保有継続(塩漬け)」を選択するのも有効な戦略です。
投資対象の将来性に変わりがない場合
投資した企業のファンダメンタルズ(業績や成長性)に問題がなく、市場全体の一時的な下落に巻き込まれているだけだと判断できるケース。
インデックスファンドなどに積立投資している場合
価格が下がっている局面は、むしろ「同じ金額でより多くの口数を購入できるチャンス」と捉えることができます。長期的に見て経済が成長すると信じるなら、淡々と積立を継続することが将来の大きなリターンにつながる可能性があります。
一方で、損失の拡大を防ぐために「損切り(売却して損失を確定させること)」を検討すべきケースもあります。
投資判断の前提が崩れた場合
投資した企業の不祥事や、業界構造の変化など、当初の投資理由が根本から覆ってしまった場合。
より有望な投資先に資金を移したい場合
含み損を抱えた銘柄を持ち続けるよりも、その資金を解放し、より成長が期待できる別の商品に投資した方が効率的だと判断した場合。
ここで重要になるのが「非課税枠の再利用」です。NISA口座での損切りは、課税口座のように税金を減らす効果はありません。しかし、損切りによって取得価額分の非課税枠を翌年以降に復活させ、新たな投資機会に振り向けるという戦略的な意味を持ちます。「このまま回復を待つ機会損失」と「枠を復活させて再投資する機会」を天秤にかけることが重要です。
損切りなどを経て、翌年に非課税枠が復活した場合、それは自身のポートフォリオ(資産の組み合わせ)を再構築する絶好の機会です。
リバランスの実行
当初想定していた資産配分(例:株式60%、債券40%)が、市場の変動によって崩れてしまっている場合、復活した枠を使って理想のバランスに修正(リバランス)します。
リスク許容度の再評価
今回の損失経験を通じて、「自分は思っていたよりもリスクに弱い」と感じたかもしれません。その場合は、復活した枠で、より安定志向の投資信託や債券の比率を高めるなど、自身のリスク許容度に合ったポートフォリオに見直すことが考えられます。
投資先の見直し
損失の原因を分析し、特定の国やセクターに偏りすぎていたと感じたなら、より分散の効いた全世界株式インデックスファンドなどに切り替えるのも良いでしょう。
損失は辛い経験ですが、それを学びの機会とし、非課税枠の再利用制度を戦略的に活用することで、より強く、より賢い投資家へと成長することができるはずです。
ここでは、NISAの損失や税金に関して、投資家が抱きがちな疑問について、トランス税理士法人の中山慎吾氏に解説をしていただきました。
トランス税理士法人
中山慎吾氏
はい、できません。2023年までの旧NISA(一般NISA、つみたてNISA)で発生した損失も、新NISAと同様に税務上ないものとされ、内部通算や繰越控除の対象にはなりません。税制上の扱いは新旧NISAで共通です。
トランス税理士法人
中山慎吾氏
NISA口座の金融機関は年単位で変更できますが、変更前の金融機関のNISA口座で保有している商品を、変更後の新しい金融機関のNISA口座に移管(ロールオーバー)することはできません。したがって、変更前の口座で発生した含み損は、そのまま変更前の金融機関の口座で管理され続けることになります。その商品を売却して損失が確定した場合も、その損失が新しい金融機関の口座の利益と通算されることはありません。
トランス税理士法人
中山慎吾氏
NISA口座で同じ銘柄を複数回にわたって異なる価格で購入し、その一部を売却した場合の取得価額の計算方法は、金融機関によって取り扱いが異なる可能性があり、注意が必要です。
一般的に、株式の取得価額の計算には税法上の原則である「総平均法に準ずる方法」(例えば、購入の都度、平均取得単価を再計算する移動平均法など)が用いられることが多いとされています。
しかし、新NISAにおける非課税枠再利用の際の具体的な計算ルールは、法令で全国一律に定められているわけではなく、各金融機関の実務に委ねられているのが現状です。売却した部分の取得価額がいくらになるかは、翌年に復活する非課税枠の金額に直接影響するため、投資家にとっては非常に重要です。したがって、「自分の口座ではどの方法で計算されるのか」を把握するため、必ずご自身が取引されている金融機関に直接問い合わせて確認してください。
トランス税理士法人
中山慎吾氏
新NISAを活用した資産形成を成功させるためには、その光と影、つまりメリットとデメリットの両方を正しく理解することが不可欠です。この記事を通じて、税務上のルールを明確に把握し、次のアクションプランを描く一助となれば幸いです。
投資に損失は発生しえるものです。大切なのは、損失を経験したときに、感情に流されず、冷静に原因を分析し、学びに変えることです。NISAは長期投資を前提とした制度であり、短期的な価格の上下に一喜一憂する必要はありません。損失が発生してしまった場合は経験を活かし、ご自身のリスク許容度を再確認し、分散投資の原則に立ち返ることで、より堅牢な資産形成の道を歩むことができるでしょう。
本記事では一般的な情報を提供しましたが、個々の取引状況や税務に関する具体的な判断は非常に複雑になることがあります。特に、NISA口座の重複開設をしてしまった場合や、多額の損失が出て今後の対応に迷う場合など、少しでも不安を感じたら、ためらわずに税理士などの税務専門家に相談することを強く推奨します。専門家からの的確なアドバイスは、あなたの資産を守り、安心してNISAを続けるための最も確実な道しるべとなるはずです。
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